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【実践例あり】コーピングとは? 意味・ストレスへの対策法

日常生活のストレスを良い方向に転換させる「コーピング」。企業が社内にとり入れることで、さまざまなメリットがあるとして注目を集めています。しかし、具体的にどのような取り組みを行えば良いのか分からない人事担当者もいるのではないでしょうか。

今回は、コーピングの意味や種類をはじめとする基礎知識や、実践方法、効果的に活用するためのコーピングリストについて解説します。


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コーピングとは

コーピングとは

現代社会は、ストレスを抱えている人が多いことから「ストレス社会」ともいわれます。プライベートをはじめ、企業においても仕事内容や人間関係で悩みを抱えている方もいることでしょう。

心身の健康状態を維持するために効果的な方法の一つが「コーピング」です。まずは、コーピングという言葉の意味や実施する目的、注目される背景から解説します。

コーピングの意味

コーピング(coping)とは、対処するという意味の「cope」に由来するメンタルヘルス用語で、ストレス反応への対処法を指します。ストレスのもと(ストレッサー)にうまく対処しようとする「ストレスコーピング」と同じ意味で使われます。

ストレッサーによって過剰なストレスがかかると心身へのさまざまな悪影響が考えられるため、健康を維持するためコーピングが必要になります。

米国の心理学者ラザルスによって提唱されたこの考えは、従業員のストレス対策の一つとして広まっています。職場のストレスマネジメントの文脈で使われるほか、看護の世界でもストレスを抱えている患者への対処法として、コーピングの考え方が用いられます。

ストレスに対しては、従業員個人が自分なりに対処するのはもちろん、働く環境をより良くするには、企業としてストレスコーピングの環境や仕組みをつくっていく必要があるといえるでしょう。

コーピングの効果

コーピングはストレスの軽減、ストレス要因を取り除くことを目的として行われます。

適度な緊張感であれば、従業員自身のパフォーマンスが良くなったり、意識が高まったりなど良い影響もあるかもしれません。しかし、過度にストレスを感じている状況では、モチベーションが下がってしまう恐れもあります。コーピングを活用してストレスを管理することで仕事への意欲が保たれ、生産性が高まる効果が期待できます。

また、ストレスが原因の疾患というと、うつ病など精神疾患のイメージがありますが、脳梗塞や心筋梗塞など身体に重大な影響を及ぼすことも。ストレス解消の方法を知ることで、心身の健康を維持しやすくなるというメリットがあります。

▼従業員が仕事に対して高いモチベーションを維持するためには、自社に愛着を持ってもらうことも重要です。従業員の「エンゲージメント」を含めた人材戦略については、こちらの資料で詳しく解説しています

コーピングが注目される背景

先述したように、現代社会では、働く人の多くが、さまざまなストレスを抱えています。仕事上の責任の重さや仕事内容、上司や同僚との人間関係など、多岐にわたるストレス要因があります。

厚生労働省が2022年7月に公表した「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」によると、「現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスとなっていると感じる事柄がある」という労働者の割合は 53.3%でした。

「強いストレスとなっていると感じる事柄」として最も多かったのは「仕事の量」が 43.2%、次いで「仕事の質」が 33.6%、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」が 25.7%となっています。

半数以上の割合の人が、仕事に対して強いストレスを感じているというのが現状です。ストレスフルな環境では、従業員が仕事で高いパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。そのことから、ストレスに対処できる方法としてコーピングが注目されています。

参考:厚生労働省「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」


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ストレスの仕組み

多くの人が抱える、仕事上のストレス

コーピングの具体的な方法を解説する前に、「ストレス」について理解を深めておきましょう。

そもそもストレスとは、外部からの刺激により、心や身体に感じる負担のことです。外部からの刺激(ストレスの原因)を「ストレッサー」、これに伴い心身に表れる反応を「ストレス反応」といいます。

ストレッサーは大きく4種類に分けられます。「物理的ストレッサー」「化学的ストレッサー」「心理的ストレッサー」「社会的ストレッサー」です。

  • 物理的ストレッサー:温度、光、音等による環境刺激
  • 化学的ストレッサー:公害物質、薬物、酸素欠乏・過剰、タバコ等による化学物質による刺激
  • 心理的ストレッサー:不安や焦り、緊張、抑うつなどの感情を伴う問題
  • 社会的ストレッサー:政治、経済、職場環境などの社会的な要素

ストレッサーの影響によって引き起こされる主なストレス反応には、以下の3種類があります。

  • 身体面:睡眠不足・過多、拒食・過食、過呼吸、動悸、頭痛 など
  • 心理面:不安、イライラ、無気力、集中力の低下 など
  • 行動面:ミス、遅刻・欠勤、暴言など

米国の心理学者・ラザルスは、「人は何らかの刺激を受けたとき、その出来事を評価しており、結果としてストレス反応が表れる」という理論を提唱しました。評価は一時的認知評価と二次的認知評価に分かれます。

その出来事が自分にとって有害であるかどうかを評価するのが一次的認知評価。「無関係・無害または肯定的」と認知されたストレッサーは、ストレスとはみなされず、その後の二次的認知評価も行われません。

有害であると判断したストレッサーには、二次的認知評価によって対処が検討されます。具体的な対処法のことを、「コーピング」といいます。


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コーピングの種類と対策例

状況に応じたコーピング型で、ストレスにアプローチする

ストレスコーピングは、大きく分けて「問題焦点型」「情動焦点型」「ストレス解消型」の3つのパターンがあります。

  • 問題焦点型:ストレッサーそのものに働きかけてストレスを軽減する方法
  • 情動焦点型:ストレスの受け取り方や感じ方を変えて軽減する方法
  • ストレス解消型:ストレスを身体の外へ追い出したり発散したりする方法

それぞれについて、特徴や具体例をご紹介します。

問題焦点型

問題焦点型は、ストレッサー自体にアプローチし、取り除く方法です。問題焦点型のなかでも「問題焦点型コーピング」と「社会的支援探索型コーピング」があります。

問題焦点型コーピングは、問題の根本を解決をすることで、ストレスフルな状態から抜け出す方向に行動するのが特徴です。例としては、以下のようなものが挙げられます。

■問題焦点型コーピングの例

  • 納期が厳しいプロジェクトばかりで制作メンバーが疲弊しているので、営業担当に納期の見積もり方法を改めてもらう
  • 職場の人間関係がストレスになっているので、思い切って転職する

社会的支援探索型コーピングは、ストレス要因に面した際に周囲の人に相談し、アドバイスや具体的な支援を求めることで問題を解決するアプローチです。例としては、以下のようなものが挙げられます。

■社会的支援探索型コーピングの例

  • 納期が厳しいプロジェクトについて、同僚や上司に相談し、どのようにすればうまく切り抜けられるのかアドバイスを求める
  • 職場の人間関係ストレスについて、信頼できる同僚に相談し、解決への支援をしてもらえるよう働きかける

情動焦点型

情動焦点型は、ストレッサー自体ではなく、ストレスだと思う感情に対してコントロールする方法です。情動焦点型と認知的再評価型に分けられます。

情動焦点型コーピングは、ストレッサーによって発生したストレスを、誰かに話したり聞いてもらったりすることで解消する方法です。例えば以下のような方法があります。

■情動焦点型コーピングの例

  • 家族や親しい友人に話を聞いてもらう
  • 専門家にカウンセリングを依頼し、聞いてもらう

認知的再評価型コーピングは、ストレッサーに対する捉え方を修正し、自分自身の認知を変化させていく方法です。以下のように、考え方を変えるのが特徴です。

■認知的再評価コーピングの例

  • 仕事の責任が重いとき、「失敗ができない」「過剰な業務を与えられている」と思うのではなく「会社から期待されている」と考え方を変える
  • 新規プロジェクトを任され、「自分では無理だ」と考えるのではなく「新しいチャレンジができる」と考え方を改める

ストレス解消型

ストレス解消型は、ストレスを感じた後に、そのストレスを身体の外へ追い出したり、発散したりする方法です。ストレスを感じたとき無意識に行っていることも多く「気晴らし型コーピング」と「リラクゼーション型コーピング」に分けられます。

気晴らし型コーピングは、ストレスを感じたとき、友人と遊びに行くなど、文字通り気晴らしをすることでコーピングとする方法です。例えば以下のような方法があります。

■気晴らし型コーピングの例

  • 友人と食事やカラオケに行って気晴らしをする
  • 温泉や旅行など日常から離れることで気持ちをスッキリさせる

リラクゼーション型コーピングは、ヨガやアロマテラピーなどのリラクゼーションでストレスを緩和する方法です。以下のようなものが例として挙げられます。

■リラクゼーション型コーピングの例

  • 瞑想・ヨガ
  • アロマテラピー
  • 腹式呼吸で自律神経を整える
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コーピング4つの実践方法

ストレスコーピング4つの実践

ここからは、企業組織内で実践できるストレスコーピングの具体的な実践アイデアについてご紹介します。

メンター制度や1on1、カウンセリングを導入する

「社会的支援探索型コーピング」などでご紹介したように、誰かに話を聞いてもらったり、相談したりすることがストレスコーピングの方法の一つです。社員が誰かに話を聞いてもらいやすい体制にするためには、メンター制度や1on1の導入、心理カウンセリングの機会を設けるなどが有効です。

メンター制度とは、豊富な知識と職業経験を有した社内の先輩社員(メンター)が、後輩社員(メンティー)に対して行う個別支援活動です。新卒入社の社員や中途入社の社員に対して、相談相手として既存社員をつけることで、メンティー(相談する側)の精神的なサポートになります。

1on1は、上司と部下の1対1コミュニケーション等を通じて、部下の成長を促すための取り組みです。評価面談とは異なるため評価には影響せず、上司が部下の話を聞く時間であることが特徴です。上司と部下だけでなく、同じ部署の社員同士で1on1を行うなど、企業によってさまざまな取り組み方法があります。

相談相手が明確だったり、相談できる機会が定期的に設けられたりすることで、ストレスコーピングがしやすい環境になるでしょう。

一方、相談者の抱える悩みに対して、精神医学等の専門知識・技術などによってサポートするのが心理カウンセリングです。カウンセラーがアドバイスをするだけでなく、相談者自身がその悩み・ストレスに対して理解を深めたり、ストレスへの対処方法を考えたりする機会になります。心理カウンセリングの機会・制度があることで、情動焦点型コーピングや認知的再評価型コーピングができると考えられます。

講座・研修を開催

ストレスコーピングという概念や具体的な実践について、講座・研修を実施するのも一つの手でしょう。

例えば新入社員向けに、セルフケアを意識できる研修を実施する、管理職向けに、組織のメンタルヘルスやコーピングについてどのように考えれば良いか講座を開催するなどの方法が考えられます。

オフィス環境の工夫

オフィスの物理的環境を工夫すると、ストレスコーピングがしやすい環境につながります。例えば、集中して静かに作業を行えるスペースを設けたり、気分転換や社員同士がコミュニケーションを図ったりできるエリアを設けたりするなどの具体策が考えられます。

社員同士で気軽なコミュニケーションがとりやすいオフィス配置にすることで社会的支援探索型コーピングにつながるほか、休憩時間に気晴らしになるゲームやアクティビティができるようにすることで、気晴らし型コーピングを実現できる可能性があります。

オフィスづくりに予算が割けない場合は、観葉植物を置く、オフィスの空調やデスク環境を意識するなど、コストをかけずとも工夫できることがないか検討しましょう。

ストレスコーピングインベントリーの活用

ストレスコーピング理論に基づき、ストレス反応や対処の傾向を測る方法として「ラザルス式 ストレスコーピングインベントリー」という検査があります。10分ほどでできる検査です。

その人の行動の傾向や習慣、クセなどを知ることで、日々発生するストレスにうまく対処する心構えを醸成するきっかけになります。導入することで、社員自身が自己を理解するのに役立つでしょう。

参考:教育評価研究所「SCI ラザルス式ストレス コーピング インベントリー」


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コーピングリストの作り方

ストレスを感じたときにどんな行動や対策をとれば効果的かをリスト化し、まとめたものがコーピングリストです。

日々のストレスとうまく付き合っていくためには、小さいコーピングを多く用意しておくことが大切です。そのなかからストレス反応に合わせたものを選択・実践、その効果を検証することで、適切なコーピングを判断しやすくなります。

コーピングリスト作成は、下記のような流れで行うのが一般的です。

  1. ストレスの原因を探す
  2. 対策や気晴らしの方法を思いつく限り書き出す
  3. 対処法を実践する
  4. 検証

まずは、自分が何にストレスを感じているのかを考察します。ストレスの原因が分かったら、その対策を思いつくままに書き出します。

「ウォーキングをする」「映画を観る」「甘いものを食べる」など、出来る限り多く気晴らしの方法を挙げるのがポイント。数が少ないと、一つのコーピングに頼ってしまう状況が生まれやすいほか、適切な対処法をリストから見つけられない可能性もあるためです。

実際にストレスがかかったと感じた際、リストのなかに書き出した項目を対処法として実践します。例えば、精神的に落ち込んだときは「気分が盛り上がる音楽を聴く」「友人に相談する」などの行動を起こします。

コーピングを実践した結果を検証することも大切です。対処法によってストレスが緩和された場合、その方法は効果があったということになります。一方、ストレスが残っていると感じた場合、他のコーピングを検討する必要があるでしょう。とった行動ごとに点数をつけて数値化しておくと、比較しやすくなります。

また、イライラしているときに気分が落ち着くような言葉を唱える方法を「コーピングマントラ」と呼びます。「マントラ」は呪文という意味。主に怒りの感情をコントロールする際に有効とされ、「大丈夫」「なんとかなる」「たいしたことない」といった言葉を繰り返し口にしたり、心のなかで復唱したりして、気分を落ち着かせます。


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メンタルヘルス対策について

メンタルヘルス対策について

ストレスへの対処を考えるとき、大きなキーワードとなるのが「メンタルヘルス」。ここからは企業が行うべきメンタルヘルス対策について解説します。

企業が行うべきこと

厚生労働省では「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を出しており、2015年からは企業に対して「ストレスチェック」の実施義務化をしています。

「ストレスチェック」とは、ストレスに関する質問票への回答を社員が行い、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる検査。

「ストレスチェック」とは、ストレスに関する質問票への回答を社員が行い、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる検査です。

国が推奨する57項目の質問票等に沿って実施し、回収・集計は医師やその事務従事者などが行います。回答済みの質問票の内容は、人事権をもつ人事部などが閲覧してはならず、結果はストレスチェックを受けた個人に通知されます。結果を企業が知りたい場合は、通知後、本人の同意のもと入手します。

詳しくは厚生労働省の「ストレスチェック制度導入マニュアル」を確認してください。


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メンタルヘルス対策における4つのケアを紹介

厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」のなかでは、4つのケアとして以下のような骨子が紹介されています。

  1. 労働者自身が行うセルフケア
  2. 企業の管理監督者が行うケア
  3. 産業医などのスタッフによるケア
  4. 外部の相談機関や専門家によるケア

ストレスコーピングの考え方は、その人自身がストレスのもとに対してうまく対処するようにすること(労働者自身が行うセルフケア)に当てはまるでしょう。

ストレス対処を自ら行える環境を企業が整えることだけではなく、外部の人間が関わりながらストレスコーピングを促し、メンタルヘルスケアを組織として対策していくことが大切です。

参考:厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」

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著者プロフィールBizReach withHR編集部

先進企業の人事担当者へのインタビューや登壇イベントなどを中心に執筆。企業成長に役立つ「先進企業の人事・採用関連の事例」や、 事業を加速させる「採用などの現場ですぐに活用できる具体策」など、価値ある多様なコンテンツをお届けしていきます。