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インタビュー
公開日: 2021/08/23  

ノーレイティングのメリット・デメリットとは?「評価制度の歴史」や「注意点」を解説

ノーレイティングのメリット・デメリットとは?「評価制度の歴史」や「注意点」を解説

定期的なフィードバックにより個人の成長を促す「ノーレイティング」。強制的なランク付けを行わない評価制度には、どんなメリット・デメリットがあるのでしょう。導入における注意点や、ノーレイティングに適した企業特性とは何か、株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役・伊達洋駆さんに伺いました。

伊達 洋駆(だて・ようく)氏
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。同研究科在籍中、2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。2013年に神戸大学大学院服部泰宏研究室と共同で採用学研究所を設立し、同研究所の所長を務める。2017年に一般社団法人日本採用力検定協会の理事に就任。
ビジネスリサーチラボでは、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方』(日本能率協会マネジメントセンター)や『人材マネジメント用語図鑑』(共著、ソシム)など。

1. レイティングとは

「ノーレイティング」の説明に入る前に、まず「レイティング」について、あらためてその定義や歴史を教えてください。

「レイティング」は、数値やランクによる(強制的な)評価(rate)のことです。

元々は軍隊における選抜から始まり、成績の悪い人を除隊させたり、異動させたりするための仕組みでした。それを民間企業で本格的に導入した有名な事例が、「20世紀最高の経営者」と称されたジャック・ウェルチの率いるゼネラル・エレクトリック(GE)です。昇進候補を「A」、現状維持を「B」、異動・降格・解雇を「C」といった具合に、従業員のランク付けを行おうとしたのです。

「レイティング」から「ノーレイティング」へ。評価制度のあり方が変化してきた背景とは何でしょうか?

当初から、民間企業におけるレイティングの運用には難しい部分がありました。例えば、一緒に働いてきた人にC評価はつけにくいという心理的な抵抗がありますし、そもそも人の評価にはバイアスがかかるので、適切な評価自体が難しいわけです。

また、強制的なランク付けは、社内競争を助長する側面もありました。社会の変化に伴い業務内容や必要な技術も複雑化し、個人だけで完結できる仕事は減っているなか、周りを蹴落としたり足を引っ張り合ったりする風土が醸成されるのは、厳しいところです。

さらに、外部環境の変化のスピードが加速した点も挙げておく必要があるでしょう。1年に1回行うレイティングでは、市況が変われば、1年前に設定した目標が1年後にそのまま使えないかもしれません。

このように、変化に柔軟かつ迅速に対応していくには、レイティングの仕組みがマッチしなくなってきました。そこで、強制的にランク付けをしない「ノーレイティング」に注目が集まるようになったのです。

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2. ノーレイティングとは

「ノーレイティング」という言葉だけをみると、「『レイティングしない』→『評価をしない』制度なのかな?」と思っている方も少なくないと思います。
あらためて「ノーレイティング」の意味を教えてください。

ノーレイティングは「レイティングを行わない」ことを意味します。「評価をしない」わけではなく、強制的なランク付けをしない制度を指します。

ノーレイティングを推進するうえで基盤となった発想が、ソフトウエア開発の世界で関心を集めていた「アジャイル型開発」です。アジャイル型開発は、実装と設計を繰り返して開発していく方法で、「開発しながら内容を変更する」ことを前提に進めます。

顧客やユーザーからフィードバックをもらいながら、都度、機能を追加・削減・修正していく―。このアジャイル手法を評価の文脈に応用したのが、アメリカのハイテク企業です。これまでより頻度を上げ、こまめに目標設定とフィードバックを繰り返していくほうが、個々の成長を促せると考えたのです。

2010年代ごろから、マイクロソフトやGEなど多くの企業が年次のレイティングをやめてノーレイティングに移行したこともあり、ノーレイティングににわかに注目が集まりました。

ノーレイティングでは、例えば、1on1コミュニケーションを通じて目標設定とフィードバックを高頻度に行います。リアルタイムな目標設定とフィードバックにより、個人の成長スピードと環境変化への対応スピードが上がる、といわれています。

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3. ノーレイティングのメリット・デメリット

ノーレイティングのメリット・デメリットをそれぞれ教えてください。

その前に、「評価」の機能について整理しましょう。

評価には大きく分けると、「見極め」と「動機付け」という2つの機能があります。

  • 見極め:被評価者の能力や業務・組織に対する姿勢や実績などを見極めること
  • 動機付け:評価を通じて、被評価者のやる気とパフォーマンスを向上させること

まず、自社の制度においては、このどちらに重点が置かれているかを考える必要があります。

ノーレイティングのメリットは、モチベーションアップとパフォーマンスアップにつなげる「動機付け」をしやすい点です。

一方、職務に合っていない人や成果の「見極め」は徹底できません。レイティングという強制的なランク付けでは、特に海外の場合、定量的な評価を根拠に「あなたはC評価なので異動です」と言いやすいのですが、ノーレイティングでは、こうした説明のための明確な材料が不足しています。マネージャーの力量が問われるところです。

もう一つのデメリットは、個々人が向かう先のすり合わせが難しく、組織内で設定された目標がバラバラになる可能性がある点です。

「OKR(※)」というキーワードを近年よく耳にするようになりましたが、ノーレイティングの導入にはOKRも併せて取り入れるなど、組織として目標の共有を強化していく必要があったのでしょう。

※OKR(Objectives and Key Results)
「目標と成果指標」と訳される。目標達成のためのフレームワーク。組織目標を掲げ、それをどう達成できるか全従業員が努力を傾け、実際に近づけたかどうかを成果として数値化するもの

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4. ノーレイティングに向いている企業

ノーレイティングに向いている企業

先ほどのメリット・デメリットを踏まえ、「ノーレイティングが向いている企業」とはどんな企業といえるでしょうか。

評価の機能として「動機付け」を重視する企業にはノーレイティングが向いています。個々人の成長を促し、パフォーマンスを高めたい企業です。

一方、成果によって処遇を差別化したいなど、「見極め」を重視する企業であればレイティングが向いています。

5. ノーレイティングを導入する際の注意点

ノーレイティングを導入する際の注意点は何ですか。

ノーレイティングでは、フィードバックが高頻度で行われるあまり、「フィードバックの海に溺れる」メンバー(被評価者)が出てきます。意識すべきことの多さに愕然とし、何をすればいいのか分からなくなってしまうのです。

そこで、マネジメント(評価者)側は、フィードバック内容を整理し、次に向けた行動を一緒に考える必要があります。例えば、フィードバック内容の優先順位を決め、とるべき行動を絞り込む時間をとりましょう。フィードバックを一方的に伝えるのではなく、具体的なアクションを検討するように支援すべきです。

ノーレイティングがうまく機能するかは、「マネジメント(評価者)側」が大きなカギを握っていますよね。

ノーレイティングでは、フィードバックするマネジメント(評価者)側の能力や態度が、メンバーの成長を大きく左右します。フィードバックが高頻度に行われるため、フィードバックの質が高い上司か、低い上司かで、1年後のパフォーマンスに影響が如実に表れます。

企業や人事は、評価やコミュニケーションに関する教育・研修を、評価者やマネージャーに提供し、質の高いフィードバックができるよう支援しなくてはなりません。

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6. ノーレイティング導入後の、適切な人員配置や育成について

会社としての一律の評価軸がなくなることで「会社側の意図」が反映しづらくなることが懸念されますが、この点について注意すべきことやポイントはあるでしょうか。

ノーレイティングに加えて、タレントレビュー(※)を取り入れる企業もあります。

「こんな成長を期待したいので、この仕事・ポジションを提供する」と、一人一人のキャリアを考えたうえでフィードバックを行えば、会社の意図を反映でき、個人と会社の成長を両立できる可能性が高まります。

※タレントレビュー
タレントレビューは、直属の上司をはじめ経営層や人事担当者が集まり、社員一人一人の強みや課題からキャリアプランなどの個人の成長シナリオについて話し合う人材開発会議を指す。

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7. 自社にあった評価制度を設計するポイントとは

最後に、「評価制度の設計・見直し」を考えている企業・人事担当者の方向けに、アドバイスをいただけるでしょうか。

自社の制度が、「見極め」と「動機付け」のどちらの機能に重きが置かれているのかを、整理することが大切です。そして、現行の制度が、その機能に本当にマッチしているかみてみるとよいでしょう。

「評価制度」は多くの企業に取り入れられています。当たり前のように存在しているかもしれませんが、評価という行為は非常に大きな労力がかかるもの。評価結果を被評価者に伝えるまでに時間がかかり、「それ、いつの話でしたっけ?」なんてことになっては、労力が報われません。やるからには、その価値を最大限にしたいものです。

執筆:田中 瑠子、編集:瀬戸 香菜子(HRreview編集部)

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