インタビュー
2020/03/17

プロ経営者が目指す、日本サッカー協会とスポーツビジネスの発展の姿/公益財団法人日本サッカー協会|FUTURE of WORK

プロ経営者が目指す、日本サッカー協会とスポーツビジネスの発展の姿/公益財団法人日本サッカー協会|FUTURE of WORK

公益財団法人日本サッカー協会

公益財団法人日本サッカー協会

専務理事

須原 清貴 様

大規模な国際大会の開催を控え、さらなる発展が期待されるスポーツビジネス。そんなスポーツのなかでも、国内外で高い人気を誇るのがサッカーです。その進化を主導する公益財団法人日本サッカー協会で、2018年3月に専務理事に就いたのが須原清貴様。キンコーズ・ジャパン、ベネッセホールディングス、ドミノ・ピザ ジャパンなどの経営を担ってきた須原様は、スポーツビジネスの今後の展望を、どのように描いているのか。株式会社ビズリーチ代表取締役社長の南壮一郎がお話を伺いました。

本記事は、株式会社ビズリーチの創業10年を記念して運営していたWebメディア「FUTURE of WORK」(2019年5月~2020年3月)に掲載された記事を転載したものです。所属・役職等は取材時点のものとなります。

兼業がスタンダードな業界に見る、日本の働き方改革へのヒント

兼業がスタンダードな業界に見る、日本の働き方改革へのヒント(日本サッカー協会)

南:須原さんが専務理事に就任されて1年以上たちましたが、どのようなことに注力されてきたのでしょうか。

須原様(以下、須原):日本サッカー協会の使命は、サッカーをより豊かな文化として発展させていくことです。そのためには「選手の育成」はもちろんのこと、選手を育てることができる「指導者の育成」が欠かせません。日本全国に「質」を伴う指導者を配置し、その「数」を増やすことが人材育成の要です。これは社員を強化する点でいえば、事業会社も同じではないでしょうか。ただ、この課題への具体的な施策はまだこれからといったところです。

一例を挙げると、われわれはグループダイナミクス、つまりは自治体、Jリーグの各チーム、またパートナー企業の方々など多くのステークホルダーと業務を推進する必要があるので、マネージャー(管理監督者)層向けにネゴシエーションを学ぶ研修を行いました。また、当協会とも関係性の深い企業の方々を交えた「他流試合」などの機会を設け、刺激を受ける環境を提供します。

南:経営の観点からすると、大変面白い取り組みですね。須原さんのおっしゃるように「指導者の育成」は事業会社でも必要な視点で、マネージャー育成は経営の生命線です。ステークホルダーも多い大きな組織だからこそ、必要な着眼点ですね。ちなみに、須原さんはこれまで複数の会社を経営されてきたと思うのですが、日本サッカー協会における「人材」の捉え方や価値観など、事業会社との大きな違いは何だと感じますか。

須原:どこにいても「お客様ファースト」という考え方には共通の意識を感じますが、仕事の進め方には多くの違いがあると感じています。やや抽象的な表現になりますが、今のほうが「ゴールの設定」が難しいです。例えば、ワールドカップで結果を出したり、選手が活躍したりすれば日本代表選手やグッズ、そしてサッカーそのものに注目が集まりますが、それを縁の下で支えた日本サッカー協会の存在にはあまり触れられません。しかし、成績が悪ければ当協会も責任を問われます。これはスポーツ統括団体の宿命です。

多くのステークホルダーが存在し、必ずしも営利だけのものさしでは測れない環境で、いかに自分たちのモチベーションを維持しながら、理念を追求して次のビジョンへ向かっていけるか。そういったコントロールは、非常に難しいなと感じます。数字だけでは成果を測れないので、その点は事業会社と大きく違うと感じます。

南:まさに難しさでもあり、スポーツビジネスの魅力でもありますね。最近、弊社では、さまざまなスポーツ統括団体様と連携して、「副業・兼業」といった新しい働き方をスポーツ産業に提唱しています。スポーツには関わりたい、しかし待遇面の観点でフルタイムの仕事としては携われない。そのような課題を解決することを目的とした新しい挑戦です。スポーツの世界における「副業・兼業」といった新しい働き方については、どのようにお考えでしょうか。

須原:当協会では、現在約200人のメンバーが職員として専業で活躍しています。ただ、全国の都道府県サッカー協会、あるいは全国の審判員や指導者たちは、ほぼすべての方が兼業です。つまり、われわれとしては兼業がスタンダードなので、「副業・兼業」に対するハードルはありません。そして、そこにこそ「宝の山」があるとも考えています。例えば、現在、約30万人が審判として登録してくれています。そのなかには教師、弁護士、公認会計士、経営者、一般事業会社で活躍する方というように、多種多様なバックグラウンドを持つ方々がいます。審判以外のバックグラウンドを私たちが把握できれば、とてつもないリソースになるはずです。

南:そのような視点はありませんでした。審判以外のバックグラウンドを有効に生かせればサッカーというスポーツにとって大きな資産となりますね。サッカーに関わっている審判の皆様が、自分自身の価値を高めつつ、試合以外でもサッカーに貢献できるとすれば、これからの時代の先進的な事例となるかもしれません。

社会全体でいいますと、「人生100年時代」は寿命が長くなり、結果として労働寿命も長くなっていくことを指しています。また、技術革新や社会における競争の激化により、会社や事業の寿命はどんどん短くなっています。この反比例する2つの動きに、個人としてどう対応していくかが今後の大きな社会的課題となるでしょう。会社で働く時間を通じて自分の能力やスキルを高める一方で、仕事以外の「個人の時間」をどのように自身に投資していくのかで、個人による差が著しく開いていくでしょう。急速に社会が変わっていくなかで、自分自身も外部環境の変化に伴って変わらない限り、今後は生き残っていけないと思うんです。生き残るためには変わり続け、変わり続けるためには学び続けなければいけない。今後の働き方、また経営における最大の差別化要因は、この時間を「投資」という概念で捉えられるか否かだと勝手に感じています。

これからの時代、個人がキャリアを築いていくために必要な成長機会を会社が全部提供する、という仕組みには限界がくるでしょう。徹底的に社内の生産性を向上させ、個人が自身に投資する時間を会社が奪わないようにできる会社こそが、これからの時代の選ばれる会社となります。このようなことを偉そうに言っていますが、私たちもまだまだ道半ばですので、言葉にすることで自分にプレッシャーを掛けて、もっと頑張りたいと思います。

須原:仕事以外の時間の投資が人生を豊かにする。それはスポーツにおいてもよく起こっていることだと思います。サッカーの活動で子どもと接していて感じるのは、実はベネフィットを得ているのは大人たちだということです。平日、本業のあるコーチたちは仕事に励む。でも土曜日や日曜日にサッカーがあれば、子どもたちと触れ合うことができ、大きな刺激をもらえます。そうすると、人生そのものが本当に豊かになっていくんです。そこに気づけた私や周囲のコーチたちは、どんどんポジティブに、仕事でもそれ以外のことでも、自分の力を発揮するべくさまざまなことに打ち込んでいけるようになりました。南さんがおっしゃるように、自分への「投資」が人生を豊かにさせると思います。

理想のリーダーとは「質問力」「傾聴力」を備えた人

理想のリーダーとは「質問力」「傾聴力」を備えた人

南:よく経営や人材戦略について聞かれるのですが、私は「課題設定」を常に戦略のど真ん中に置いている、と話すことが多いです。民間企業の原理原則は、お客様の課題を解決し、感謝の印として、その対価をいただくことです。またその対価を得るための業務を要素分解し、要件定義しながら、適材適所、また適所適材で従業員を配置し、組織を運営していくことが会社の本分です。先ほども須原さんがお話しされていましたが、民間企業でない場合は、お客様の課題解決だけでは、戦略を築くことが難しいですし、複雑なステークホルダーとの関係性構築も想像の域を超えません。普段は、どのようなことを考えてお仕事をされているのでしょうか。

須原:そうですね。ただ、その点については、私はネガティブには捉えていません。良い意味で複雑に絡み合っているというダイナミズムは難しさでもあり、面白いところでもありますから。

さらに、外的環境の変化のスピードでいえば、スポーツの世界は、ビジネスの比ではありません。ただ、サッカー界を取り巻く環境やルールの変革はFIFA(国際サッカー連盟)が起点となり、不可抗力の部分が多く存在します。大会のフォーマットやレギュレーションの変更に伴い、運営カレンダーがすべて変わるようなこともあります。自分たちでコントロールできないことがあり、最近は、その変化の動きがグローバルでものすごく速くなっており、柔軟、かつスピーディーに対応しないと置いていかれてしまいます。

また、テクノロジーの進化もビジネス同様に直接的に関わります。ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)システム導入の流れは止められないでしょうし、それによってペナルティーエリア内のプレー、あるいはサッカーそのものが変わってくる。また、テクノロジーの進化に対応し、審判を含め、指導や育成もしなければなりません。このように、テクノロジーや人材育成に対する莫大な投資も必要です。

VARシステムが今後スタンダードな状態になること、またサポーターやメディアにも過不足なく説明していくことは、短期的には大きなミッションの一つですね。

南:なるほど。先ほどおっしゃっていたテクノロジーの進化に起因することが多いのですね。どの産業でも劇的な変化が起こっているためか、経営者の間で、変わり続ける組織を創るための「人材育成」の話題はよく挙がりますね。須原さんは組織における「人材育成力」を高めるためには、どのようなことが可能だとお考えですか。

須原:人材育成における指導といえば、ありきたりかもしれませんが「研修」が重要な要素の一つだと捉えています。ただ、研修はきっかけの提供でしかありません。日々の仕事や活動のなかでトライして、前向きな失敗を繰り返して学んでいくことが重要だと思っています。

南さんがおっしゃった「課題設定能力」も肝心です。設定を間違えてしまうと、無駄な努力をしてしまうことになりかねない。そのうえで、ポジティブに捉えられる失敗をメンバーにさせてあげるためにはどうすれば良いか。その環境づくり、あるいはその引き出し方こそ、私が意識している「人材育成力」には重要だと考えています。

南:時代に沿って変わってきましたが、一方通行で物事を伝えるだけでは指導にならないのは、ビジネスもサッカーも同じですね。「リーダーシップ」について私が感じているのは、コミュニケーションにおいては、自分が何かを相手に伝える力以上に、相手の言葉を聞き取ろうとする力、さらに相手から言葉を引き出そうとする能力のほうが大事なのではないか、ということです。振り返ってみれば、私がお世話になってきたビジネスの世界をけん引する諸先輩方も、その能力が非常に高かったと感じています。

よくコーチングという言葉も聞きますが、今の時代、相手に興味や関心を持ち、相手の考えを引き出すための場や空気、雰囲気を作れる能力が大切になると感じます。受け取る側の「信頼を得る」ことや「心理的安全性を作る」ことが、今後の人材育成力の根底になっていくのだろうと、最近はよく考えていますね。

それでは最後に、須原さんのご経験を振り返って、令和の時代における「理想のリーダー」に必要な能力とは何か教えていただけないでしょうか。

須原:リーダーシップのスタイルは複数あると思いますが、メンバーに自身の力を発揮できるステージをいかに提供できるか、それが肝だと思います。そのために「質問力」は重要ですね。意味のあるタイミングで、意味のある質問がきちんとできるかどうか。誘導するような質問ではなく、チームとして直面している課題を前進させるために、メンバーの頭脳が活性化する問いかけです。そういった問いかけをするために試行錯誤できることは、能力の一つだと思います。

もう一つは、「傾聴力」です。周囲の発言にどう耳を傾け、言い換え、次に発展させられるか。そして、その両面からなる「対話力」が非常に重要でしょう。

「世界との距離」が近いスポーツビジネスで、比類なき経験を

「世界との距離」が近いスポーツビジネスで、比類なき経験を

南:スポーツビジネスの未来、特に日本における未来は、須原さんの目にはどのように映っているでしょうか。

須原:確実に成長領域ですね。それを、いかに加速させられるかがわれわれのミッションです。ただ、日本サッカー協会としては、組織が統括団体である以上、「強化」と「普及」の両立が欠かせません。近年は特に短期的に強化を進めて成果を挙げることに目線がいきがちなのですが、普及がなければ競技の5年後、10年後がなくなります。

トッププレーヤーの育成はもちろん、裾野をさらに広げて競技人口を増やすこと。それらを実現してこそ将来がしっかり見えますし、ビジネスチャンスがどんどん生まれてきます。

南:私も同感です。先ほどもお話ししたように、今後は「仕事以外の時間」が増えていくはずです。余暇や娯楽が含まれるさまざまな領域がありますが、私はその観点でスポーツの重要性がさらに増していくのではないかと考えています。特に子どもや家族、もしくは地域コミュニティーをつなぐ役割として、スポーツには社会における秘められたポテンシャルがあります。社会的にも、経済的にも大きな価値がまだ眠っている成長産業だと思います。

須原:そうですね。サポーターの関わり方においても、スタジアムで観戦したり、テレビやネット配信で見たり、今ではゲームを用いたeスポーツのような形もある。チャネルをどんどん広げて、サッカーに携われるアプローチの方法を増やしていくことが重要だと考えています。

さらに言えば、サッカーがチャネルとなるプラットフォームを作れたら、サッカーだけでなく、他のスポーツにも開放していけばいい。多様なチャネルでトランザクションとコミュニケーションが増えていけば、ビジネス的にも非常に大きなチャンスだと思うんですよ。

南:今後のスポーツ産業は、成長産業として、社会人としての一定の基礎を築いた方にとって、個人のキャリアを育み、成長する機会と環境がそろっていくでしょう。

須原:そうですね。サッカーに限らず、スポーツは「世界との距離」が非常に近いので、運営やビジネス、コミュニケーションといったあらゆる分野で、世界の最高峰や最先端と関係を持つことになります。

特に若い世代には、スポーツビジネスも自分のキャリアの選択肢に入れてほしいですね。世界とつながり、ダイナミズムを感じられる、これだけの貴重な経験ができるとすれば、仮にその次にノンスポーツの分野にキャリアチェンジするとしても、ここで得た経験と知見はとてつもなく生きるはずです。

日本サッカー協会須原様×ビズリーチ南

須原 清貴 様 略歴

1966年生まれ、岐阜県出身。1991年、慶應義塾大学法学部卒業後、住友商事に入社。2000年にHarvard Business SchoolでMBAを取得。2001年から、ボストン コンサルティング グループ、キンコーズ・ジャパン、ベネッセホールディングス、ドミノ・ピザ ジャパンで代表取締役社長などを歴任し、2018年3月より公益財団法人日本サッカー協会専務理事に就任。3級審判インストラクターの資格も保有する。

取材・文:長谷川 賢人
カメラマン:矢野 寿明
記事掲載:2019/8/1

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