キャリアアップ助成金とは? 現役社労士がわかりやすく解説! 申請方法のポイントや注意点など

キャリアアップ助成金とは? 現役社労士がわかりやすく解説! 申請方法のポイントや注意点など

社労士として、事業主の方の悩みをたくさん伺ってきました。
そのなかで一番多い悩みは、断トツで「人」についてです。「思うように採用活動が進まない」という悩みもあれば、「採用した人が問題のある人だった」という話もよく聞きます。

事業主によっては人を雇うことを諦め、一人あるいは少人数で企業活動を行っている、という方もいらっしゃいます。しかし一方で、人手不足による業務の属人化や、病気などの突発的な理由によって業務が回らなくなるなど、会社にとって致命的なリスクになる可能性もあります。

人材採用の問題と会社規模の拡大というジレンマは、中小企業が乗り越えるべき最初の壁になります。

この壁を乗り越えるために、ぜひ知っていただきたいのが「キャリアアップ助成金」です。採用する社員のキャリアアップを会社が計画的に行うことで、返済不要の助成金を得られます。採用コストや教育コストを抑えることができるのです。同助成金については、助成内容がほぼ変わらない状態でここ数年続いており、需要の高い助成金であることがわかります。

本記事では、キャリアアップ助成金の種類や受給内容、申請時の注意点などをご紹介します。

村田 淳氏

著者プロフィール村田 淳(むらた・あつし)氏

えん社会保険労務士法人 代表社員

ITソフトウェア会社にて人事労務や給与計算システムのコンサルティング業務に従事後、2017年3月に開業。仕事は損得ではなく「縁」を大切にするのがモットー。縁を感じれば、どんな仕事でも全力で取り組む。著書「給与計算のツボとコツがゼッタイにわかる本」(秀和システム)。

※本記事で紹介している情報は、2021年6月時点のものです。

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新型コロナウイルスの影響と人材の流動化

新型コロナウイルスの影響と人材の流動化

現在は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、業績が極端に下向いた企業とそうではない企業が二極化しています。新たに採用をしたいと考えている会社から見れば、コロナ禍の影響を強く受け、先行き不透明な厳しい環境の真っただ中におかれている、優秀な人材の流動性が高まっているといえるかもしれません。

今だからこそ、本記事でご紹介する「キャリアアップ助成金」を上手に利用して、会社における「人にまつわる悩み」を解決する機会になるととらえてはいかがでしょうか。

コンサルティング会社を名乗る事業者の甘言にご注意

一方でコロナ禍に乗じて、助成金コンサルティングや経営コンサルタントを名乗る会社・人が「この用紙に記入をして申請するだけで、○百万円受給できます!」という宣伝で事業主へアプローチをしてくることがあります。

全てが悪質とは言えませんが、これらの事業者のなかには手数料や報酬などを目的に、不必要な制度を斡旋したり、最悪のケースでは虚偽の申請書の提出を指南したりすることも。会社にとって負担になるだけですめば不幸中の幸い。申請に不正があった場合、事業主が責任を問われるというリスクもあります。「不正受給」は助成金が実際に支給されたかどうかは問われません。「申請をするだけ」でも「不正受給」として罰せられる可能性もあるので、相談先は慎重に選びましょう。

もし、キャリアアップ助成金の受給を目指すのであれば、まず「従業員のキャリアアップ」という目的があることを忘れずに進めてください。従業員のキャリアアップのために奮闘する会社の姿勢を従業員自身が感じることで、彼らのモチベーションアップにつながるかもしれません。

【参考】助成金に関する勧誘にご注意ください – 厚生労働省

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キャリアアップ助成金とは? 概要と目的を紹介

キャリアアップ助成金とは? 概要と目的を紹介

キャリアアップ助成金とは、有期雇用契約社員、派遣社員、短時間社員など、いわゆる非正規労働者に対して、以下に述べるようなさまざまな支援を社内で行うことによって得られる助成金です。厚生労働省から発表されている公的な助成金であり、返済は不要です。

会社からすると、費用を支援してもらいながら、かつ労働者の意欲や能力を向上させ、ひいては会社の人材不足の解消や生産性の向上につながる施策となります。

キャリアアップ助成金の目的

目的は文字通り、非正規社員のキャリアアップです。正社員と非正規社員の間には、賃金はもちろん、その教育体制や待遇に格差があり、非正規社員は不安定な生活を強いられているという状況があります。この格差を解消する施策を行うことが、この助成金の大前提となります。

この前提を理解しておかないと、いざ助成金の支給申請を行うときに、正しい書類をそろえられない危険性があります。後述するように、キャリアアップ助成金の支給申請は、施策(例:正社員等への転換、賃金改定、法定外の健康診断制度の新設など)を行ってから数カ月後になります。つまり、施策を行った後に、それが「非正規社員のキャリアアップにつながっていなかった」と後から判明した場合も、助成金の対象にはなりません。

そのため、キャリアアップ助成金を活用するかどうかの検討段階で、その施策が本当に非正規社員のキャリアアップにつながっているか、その助成金要件に適しているか、という点が重要です。繰り返しになりますが、助成金の支給申請のタイミングでは遅いので、施策に入る前に、この助成金制度の目的をしっかり理解しましょう。

キャリアアップ助成金の申請は難しい?

キャリアアップ助成金の支給申請が進まない理由の一つとして「提出する書類に高い整合性が求められる」点が挙げられます。労務に対する意識が低かったり、理解が浅かったりする事業主だと、その書類準備の面倒さに諦めてしまうことも。逆にいえば、法定帳簿等を法定通りに普段からそろえている会社であれば、決して難しい申請手続きではありません。

しかし、これを「面倒だ」と放置しておくことは、助成金の受給の有無に関係なく、企業としてリスクを放置することと同じであると心得てください。提出する書類は、本来なら整合性が取れていて当然です。キャリアアップ助成金を簡単に得られるか否かで捉えるのではなく、企業として成長していくために必要な段階を踏むためのものとしてキャリアアップ助成金を活用しましょう。

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コロナの影響によるキャリアアップ助成金の拡充

キャリアアップ助成金は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響に合わせた制度拡充を行っています。具体的には「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」において、通常対象となるには有期雇用契約期間は6カ月以上必要ですが、「令和2年1月24日以降に新型コロナウイルス感染症の影響により離職し、就労経験のない職業に就くことを希望する者」の紹介予定派遣に限り、6カ月未満でもキャリアアップ助成金の対象としています。

コロナ禍の影響の大きさは業界ごとに異なり、自身がキャリアを積んだ業界では再就職が難しい、という側面があります。そのような方の異業種転換を国として支援している、ともいえるでしょう。コロナ禍を機にキャリアチェンジする方を応援する施策としても注目される助成金です。

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キャリアアップ助成金、6つのコースと助成額について

キャリアアップ助成金、6つのコースと助成額について

キャリアアップ助成金にはいくつか種類があります。ここでご紹介する各コースの申請金額は中小企業で代表的なものであり、その他、条件によって加算減算および上限があります。

正社員化コース

非正規社員等を正規社員に転換することによって得られる助成金です。キャリアアップ助成金の代表的なコースになります。有期雇用契約社員を正社員転換することで、1人あたり57万円が助成されます。

賃金規定等改定コース

非正規社員等の賃金規定表を改定して、昇給させることで得られる助成金です。1事業所1年あたり、1回のみ受けることができます。対象者の人数によって金額が変わり、10人までの企業なら9万8千円~28万5千円の助成、その後は1人増えるごとに2万8,500円の追加になります。

賃金規定等共通化コース

非正規社員等の賃金規定を正社員にも適用することで得られる助成金です。1事業所あたり1回のみ、57万円の助成です。

諸手当制度等共通化コース

非正規社員等の手当などを正社員の規定に合わせることで得られる助成金です。1事業所あたり1回のみ、38万円の助成です。

選択的適用拡大導入時処遇改善コース

労使合意に基づき、社会保険の適用拡大を行う事業主が、非正規社員等に社会保険の制度概要や加入メリット等の説明・相談等を行うとともに、保険加入に関する意向確認等を行うなどの施策で、非正規社員の社会保険加入を促進した事業主が得られる助成金です。1事業所あたり1回のみ、19万円の助成です。

短時間労働者労働時間延長コース

短時間労働者の所定労働時間を延長し、社会保険加入を促進した事業主が得られる助成金です。1人あたり22万5千円の助成です。

ちなみに、私が代表をしております「えん社会保険労務士法人」へのキャリアアップ助成金に関するお問い合わせのほとんどが、最初にご紹介した「正社員化コース」になります。

ここからは正社員化コース以外の5つを「処遇改善関係コース」とし、「正社員化コース」と「処遇改善関係コース」の2つに大別して、解説をいたします。

キャリアアップ助成金6つのコース
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キャリアアップ助成金の対象となる代表的な適用要件

資本金の額・出資の総額 常時雇用する労働者の数
小売業(飲食店を含む) 5千万円以下 または 50人以下
サービス業 5千万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

まず、キャリアアップ助成金の受給要件として、中小企業事業主は上の表に記載されている内容が必須条件になります。中小企業事業主に対しては、大企業に比べてより多くの金額が助成されます。

どのコースを利用するにしても、大前提は非正規社員のキャリアアップですから、自社でいう「非正規社員」とはどのような方なのか、定義付けをしておく必要があります。

その定義付けを行うのが、就業規則です。よって、遅くとも施策に取り組むタイミングで、就業規則を会社に備え付ける必要があります。就業規則は常時労働者が10人以上の場合、労働基準監督署へ届け出が必要です。就業規則は申請書類の一つですので、必ず労働基準監督署からの押印書類を残しておいてください。
10人未満の事業所の場合は、労働基準監督署への提出は義務ではないので、押印書類がなければ、別途申立書と呼ばれる書類を作成すれば問題ありません。

非正規社員の定義付けができたら、その就業規則に従って、本人に対し非正規社員であることを通知する必要があります。一般的に、非正規社員であることは雇用契約書のなかで明示されています。よって、雇用契約書を交わすことが必須です。こちらも申請書類としてその控えを提出することになりますので、必ず雇用時に契約書を交わしてください。

正社員化コースの申請要件のポイント

まずは、一番利用されている「正社員化コース」の場合です。把握しておくべき大きな点は、以下の要件になります。

(1)対象者が事業主または取締役の3親等以内の近親者でないこと。おじ、おいの関係では対象外、いとこは対象
(2)対象者が転換日の3年以内に事業主(または密接な事業主)に別会社などで雇用されている、業務委託で業務をするなど、密接な関係にないこと
(3)有期雇用契約を6カ月以上行っていること
(4)正社員転換を行い、新たな契約書を結んでいること
(5)転換日前後のそれぞれ6カ月間で、3%以上の昇給をさせていること
(6)正社員転換後、正社員として6カ月以上の給与を支給していること

他にも詳細な要件はありますが、事業主が押さえておくべき要件として挙げました。

(1)と(2)については、「わざわざ非正規で雇用する」ということが想定しにくいのではないかと思います。
(3)から(6)は正社員化コースにおける手順といってよいでしょう。就業規則で作成された手順に従って、順番に実施することが重要です。

処遇改善関係コースの申請要件のポイント

賃金規定等改定コース、諸手当制度等共通化コースの場合、主なところでいえば正社員と同じ規定、または手当を支給するというのが前提となります。その制度の下、6カ月間給与を支給した実績が求められます。

諸手当制度等共通化コースには、歯周病検診や人間ドックなど、法定外健康診断制度を非正規労働者に設け、実際に健診を受けさせることが要件となるコースもあります。この場合は、制度制定後、4人以上に健診を実施する必要があります。非正規社員が多い会社であれば、利用を検討するとよいでしょう。

選択的適用拡大導入時処遇改善コース、短時間労働者労働時間延長コースは、社会保険の加入がポイントとなります。労使合意による社会保険の適用拡大や、短時間労働者の所定労働時間の延長による社会保険の加入を予定されているのであれば、こちらのコースも検討してみてください。

なお、ここには代表的な要件のみを記載していますが、さまざまな細かいルールがありますので、ハローワークや専門家である社労士にご不明点をお問い合わせください。

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キャリアアップ助成金の支給申請方法

キャリアアップ助成金の支給申請方法

どのコースも共通しているのは、まず「キャリアアップ計画書」を提出することです。キャリアアップ計画書はキャリアアップに係る取り組みの前日までに都道府県労働局に提出し、認定を受ける必要があります。認定された日付をさかのぼることができませんので、キャリアアップの施策を行う前に必ず提出を完了してください。

受給までの流れ

出典:キャリアアップ助成金のご案内(厚生労働省 都道府県労働局 ハローワーク)

キャリアアップ計画書作成にあたり、まずは計画期間を3年から5年の間で決定し、その期間に行われた施策について助成金を受給することになります。キャリアアップ計画書は、会社の状況などに変更があった場合、その都度提出を行います。

コースに応じてフローも異なるので注意してください。

  • 正社員化コースの場合

計画書を提出後、就業規則に基づき正社員転換を行い、転換後に6カ月分の正社員としての給与を支給した後に支給申請を行います。

  • 処遇改善関係コースの場合

就業規則の改定などの施策を行ってから、その改定に合わせた賃金を6カ月支払った後に支給申請をすることになります。

支給申請はその賃金を支払った日の翌日から2カ月間です。その期間を過ぎると、申請はできませんので、速やかに実施する必要があります。実際にお金が振り込まれるのは、そのときの申請の混雑状況等に左右されるので、半年先くらい、と思っておいた方がよいでしょう。

どちらも共通していることは、後述の計画書の記載内容、就業規則の記載内容、行った施策など、提出書類の整合性を問われるということです。申請は施策の6カ月程度後なので、いざ申請する際に整合性が取れていないとしても、後戻りはできません。

例えば、雇用契約書の内容と実際に支払われた賃金に齟齬があれば、それは施策を計画通りに行ったとはいえないことになります。

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社労士からのワンポイントアドバイス

計画書を提出してから年数がたつと、計画時に設定した計画期間の最終日を過ぎた後に施策(例:正社員転換など)を行ってしまうことがあります。もちろん、計画期間外に行われた施策は助成金の対象とはなりません。そのため、長期にわたって施策を行う場合は、いつからいつまでが届け出たキャリアアップ計画期間であるのか、きちんと把握しておくことが求められます。

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キャリアアップ助成金の注意点

キャリアアップ助成金の注意点

メリットの多いキャリアアップ助成金ですが、要件や手順を理解しないと、申請そのものができなくなる可能性もあります。下記の注意点をしっかり把握し、正しい申請・受給を行ってください。

助成金は資金繰りには使えない

助成金の大前提は、「施策を行った後に」受給となることです。例えば正社員化コースの場合、採用から考えると有期契約で6カ月、その後正社員転換して6カ月、2カ月間の申請期間で申請を行います。さらに令和3年現在ですと、申請してから実際に入金されるまで、半年前後かかっています(地域や時期により入金までの期間が変わります)。

つまり、採用したタイミングから数えれば、最終的に受給できるまで2年弱かかるのです。その他のコースにおいても、同様に申請から半年程度は入金まで時間を見ておいた方がよいでしょう。

そのため、「今すぐ手元に現金が欲しい」という状況に応じることは難しく、中長期的な目線での支給申請を検討してください。また、整合性を厳しくチェックされますので、場合によっては不支給という可能性もあります。助成金を資金繰りには使用できないと心得てください。

正社員化コースにおいて、正社員になることを確約できない

正社員化コースの場合、雇用時に「正社員になることを確約して」有期雇用で契約した場合は対象外となります。キャリアアップ助成金を検討中の方は、採用募集の段階から注意しなければなりません。

例えば、「正社員募集」と募集をかけて、実際に募集に応じた方を有期雇用契約にするというのは、キャリアアップ助成金の前に信義にもとる話です。もちろん、有期雇用契約での募集と正社員の募集とでは、応募者の数や職歴などにも違いが出ることでしょう。それでも、キャリアアップ助成金を正しく受け取るためには、有期雇用契約社員として応募を行い、その通りに採用し、就業規則にのっとって正社員転換するというプロセスが大事になります。

両者合意の下、正社員の募集に応募した方を有期雇用契約社員として契約した場合はキャリアアップ助成金の対象にできますが、トラブルの元となるのでお勧めできません。

「試用期間」と「有期雇用」の違いを理解する

ご相談いただくなかで、よく混同されているのが「試用期間」と「有期雇用」です。この2つは明確に異なります。一般的に雇用契約書のひな型などに記されている試用期間とは、正社員になることを前提にしています。よって、雇用契約書に「試用期間6カ月」と記載しても、それはキャリアアップ助成金の対象とはなりません。

有期雇用契約の場合は、雇用契約の終了日を明記してください。正社員用の雇用契約書のひな型を利用していると、時に適切ではない内容が残されてしまっていることも。例えば、6カ月の有期雇用契約者なのに「3カ月の試用期間」や「昇給・賞与・退職金」などに関する条件が記載されたままのケースです。
このような観点で整合性が取れなくなりますので、隅々までしっかりチェックしましょう。

上記に例示した一つ一つの事項は、そのことをもってすぐにキャリアアップ助成金の支給・不支給につながる話ではありませんが、このような有期雇用の契約社員に対するルールを決めておくことが、整合性を取るうえでは大事になります。

「残業代」が正しく計算されているかは、特にチェック。固定残業代に注意!

給与計算においても注意が必要です。特に残業代を正しく支給しているかどうか、ご確認ください。出勤簿と賃金台帳の提出があり、ごまかすことはできません。絶対にチェックされると考えておいた方がよいでしょう。

残業代の話になると、「うちは固定残業制だから大丈夫」という事業主の方もいらっしゃいますが、キャリアアップ助成金では、むしろ固定残業制にしている会社ほど慎重に書類を作成するべきです。

まず、事業主が作る雇用契約書に散見されるのが

基本給 ○○円 残業代込み

と記載されたものです。正社員化コースでは、昇給の要件において残業代は除かれます。
しかし、この書き方では、その給与のうちどの部分が基本給なのか、わかりません。これでは正社員化コースの要件の1つである「3%の昇給アップ」を満たしているかがわからないのです。

固定残業制にしているということであれば、必ず雇用契約書上で

基本給○○円、固定残業代××円(△△時間分)

のように、基本給と固定残業代、そして固定残業代に相当する残業時間を明記してください。もちろん、毎月の給与計算では、実際に計算した残業代と固定残業代を比較し、前者の方が多ければその差額を支給することになります。また昇給させる際に、固定残業代も合わせて上げておきましょう。

3%の昇給については、全体ではなく基本給など固定的な金額をもって3%の昇給をしている必要があります。つまり、正社員になって残業代が増えたから3%アップ、というのは対象外ということになります。

正確には、転換日前後6カ月前後の合計金額をもって3%の昇給を判断します。以前は賞与も対象にできたのですが、令和3年度以降の正社員転換については、あくまで給与のみでの昇給が必要となっています。昇給について、要件に合っているかどうか気になる場合は、昇給を行う前にハローワークまたは専門家である社労士に確認を取ることをお勧めします。

処遇改善関係コースの申請の注意点

処遇改善関係コースでは、まず現在の賃金規定や手当を整備する必要があります。現在支給している基本給や手当は賃金規定に含まれ、そのルール通りに支給されているでしょうか。賃金規定がそもそも古く、それぞれに規定にない手当金額を支給しているケースが散見されます。

健康診断制度の導入による助成金受給を目指す場合、対象となる非正規社員が期間の定めのない労働条件でかつ週の所定労働時間が正社員の3/4以上であると、助成金の対象となりません。これらの方はそもそも雇入時健康診断および定期診断の対象者であり、健康診断を行うことは当然でしょう。

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キャリアアップ助成金で重要な計画書と管理者について

キャリアアップ助成金で重要な計画書と管理者について

最後に、キャリアアップ助成金を活用するにあたって、最初に提出する「キャリアアップ計画書」について、ポイントを説明します。

労働者代表を決める

キャリアアップ計画書1

出典:申請様式のダウンロード(キャリアアップ助成金)(令和3年4月1日以降の取組に係る様式)(厚生労働省)

まず、表紙にある「労働組合等の労働者代表者」に注目です。同計画は、事業主が一方的に進めるものではなく、労使で話し合いを行いながら進めるものになります。そのため、労働者代表はいわゆる労働基準法上の管理職ではなく、従業員から選ばれた代表者である必要があります。必ず労働者代表を選出し、直筆で署名をしてもらってください。なお、労働者代表がキャリアアップ助成金の対象者となることは認められています。

キャリアアップ管理者を決め、キャリアアップ計画を立てる

キャリアアップ計画書2

出典:申請様式のダウンロード(キャリアアップ助成金)(令和3年4月1日以降の取組に係る様式)(厚生労働省)

次に、「キャリアアップ管理者」を立てる必要があります。キャリアアップ管理者は、非正規社員のキャリアアップのために目的、期間、実施方法などの計画を立て、実行する責任者です。一般的には社内で人事を取り仕切っている方、人事部長などが適任ですが、対象者や事業主自らが管理者となっても構いません。ただし、労働者代表はキャリアアップ管理者になれませんので、ご注意ください。

キャリアアップ管理者が決まったら、キャリアアップの計画を記載します。申請様式に記載する内容は極めて簡潔で問題ありませんが、対象者のキャリアや将来を左右する大切な計画です。下でご紹介している資料「人材育成のカギとなる『キャリアアップ計画』の立て方」などを参考にしながら、どのようなキャリアアップを実行するのかしっかりと計画を立てたうえで、労働局などで公開している記載例などを参考に記入しましょう。

「人材育成のカギとなる「キャリアアップ計画」の立て方」をダウンロードページへ

キャリアアップ計画の実行は、会社が正しく成長するための一歩

いかがでしたでしょうか。キャリアアップ助成金は、実際に計画を始めてから助成金を受給できるまで長い期間がかかるとご認識ください。しかし、キャリアアップを計画通りに実行すれば「確実に助成金を得ることができる」ため、中小企業にとっては魅力的なはずです。

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例えば、正社員化コースで一般的に得られる57万円とは、利益率5%の会社なら売り上げ約1,140万円に相当します。そこにさらに、キャリアアップ計画を実行するということは、労務管理を適切に行える環境に整えることを意味します。会社が正しく成長するためにぜひ取り組んでいただきたいと考えます。

申請にあたり、多くの要件や注意点をご紹介しましたが、これらはキャリアアップ計画を立てるうえで必要なキャリアアップ管理者にとって必須の知識です。あくまでも事業所ごとに一人のキャリアアップ管理者を配置する必要があるため、一つの会社が複数の事業所を運営している場合には、この専門人材の確保が困難でしょう。

◆     ◆     ◆

ビズリーチでは、キャリアアップ管理者にふさわしい経験豊富な人材をはじめ、さまざまなスキルや専門性を持つ即戦力人材が登録しています。ぜひ一度、業種や職種など6つの条件を組み合わせにより、その場で貴社の採用要件に合った人材がどれくらい登録しているかを確認できる「お試し検索」をしてみてはいかがでしょうか。

執筆:村田 淳(えん社会保険労務士法人 代表社員)、編集:瀬戸 香菜子(HRreview編集部)

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